帰心如箭 2
広げていた新聞を軽くたたんで 手の煙草を灰皿に押し付けて消すと、
「明日は 買い物と休養、ここから西への道について 調べる。
出発は 明後日の朝だ。」そう言い残すと 三蔵は
と2人用に取った部屋に 立ち去った。
隣の部屋のドアが 閉まる音が聞こえて 残された3人は 同時にため息を吐いた。
「泣くのかなぁ?
三蔵 きつい事言わないといいけど・・・・。」
悟空は 何時になくシュンとして 元気がない。
「大丈夫ですよ。
三蔵だって にだけは 優しく言いますよ。
今までだって 時々でしたが 隠し切れない優しさが
見えてた時があったでしょう?」
「そうだぜ、心配ないって・・・・。
どちらかといえば 三蔵の方が めちゃ惚れなんだからよ。」
「そうだよな。」
悟空は この辛い選択をが受け取る時 せめて三蔵が優しくあって欲しいと願った。
そうでなければ が可哀想すぎると・・・・・。
三蔵が ドアを開けて 部屋に入ると は濡れ髪を拭きながら、
何か メロディーを口ずさんでいた。
その姿を横目に見て 三蔵は窓際へと立った。
暫くそのまま時がすぎてゆく。
髪が乾いて 身支度が済んだは 三蔵の表情から 自分が考えていたことと
同じものを感じ取っていた。
「三蔵、お話しても いいでしょうか?」
「あ?あぁ。」
「三蔵が何を言いたいのか わかっています。
私にこの旅をここで降りろと仰りたいのでしょう?」
「あぁ。」
「どんなに私が 強くて心配要らないのだと言っても
皆はそう思っていないようですもの。
戦いながら 私の気配を探り 傷ついてないか 追い詰められてないかと
心配してくれている事を 感じながら 私は 戦っていました。
これまでは 私への気遣いも負担ではないようだったので
私も皆に甘えておりましたが、この頃は そうも行かなくなったようです。
あしでまといにはなっていないと思いますが、私に気を取られていては
敵に隙を作るのではないかと 心配していました。」
「そうだな。」
「これから もっと西へ向かうとすれば
敵の襲撃も 回数・人数ともに 多くなるでしょう。
それに 私が一人減れば 食量も水も余分に積めます。
野宿が多くなる可能性が高いのですから
女の私が一緒では 無理の加減も違ってきます。
幸いにも この街は大きいようですし 比較的安全なようです。
ここなら 私1人でも 待っていられると思います。
すでに この先の地図も手に入らないのですもの・・・・・。」
「。」
「出発はいつですか?」
「明後日の朝だ。」
「ここで 旅を降りることには 何も文句は言いません。
ですから ここで お帰りを待つ事を 私にお許し下さい。
お願いです。
1人で 西安に帰れとか 神女の役目に戻れとか 言わないで下さい。
ただ 三蔵の悟空の八戒の悟浄の・・・・4人の帰りを待たせて下さい。」
「許してやってもいい、
だが 1つだけ約束してくれ。
『俺達の旅の後を追う事はしない』と約束するなら 待っていてもいい。」
三蔵の言葉に は 唇を噛んだ。
「三蔵 それは 『西への旅』と言う意味の他に
『死出の旅』も含まれていますか?」その問いに三蔵は 無言で返した。
「だって 帰ってきてくれるのでしょう?
私を1人で置いて行かないと 以前に言ってくれたではないですか。
生ある限り 私を愛してくださると 約束してくださったはずです。」
「あぁ 約束した。
たがえる様な事はしねぇ。
だが この先には 力だけでは 敵わねぇやつもいるかもしれねぇ。
命ある最後の時まで を愛すると約束する。
それでも 帰ってこれるかどうかは わからねぇ。
だから 後を追うな。
それを約束してくれるなら ここで待っていてもいい。」
「三蔵 貴方達が 帰ってくるまで 私は命ある限り ここで待ちます。
金蝉や捲簾や天蓬のように 例え同じ姿では 会う事は出来なくても、
また あなたを・・・・三蔵を愛するために 待ちますからね。
そんな悲しい事を 私にさせないためにも 帰ってきてください。」
は 三蔵の胸に飛び込んで そのぬくもりを確かめた。
暫く2人で そうしていたが は何かを思いつくと 三蔵の胸を離れた。
「リム 来て下さい。」
空に向かって そう言うと 隣の部屋から 黒龍のリムジンが飛んできた。
「急いでお使いに行ってくれますか?
四方神の青龍のところへ行って たて髪を5本もらってきてください。
明日の夜までに行って来れますか?
ちょっと無理をさせますが お願いします。
明後日の朝までに必要なんです。
私とリムは 三蔵達が 旅立ってもここに残ることになりましたから
そのつもりでいて下さいね。」
リムは 窓を開けてやると そこから 空へと飛び去った。
それを見届けると は洗ったばかりの髪を 丁寧に梳かし、
27本づつ数えては 頬の下あたりで 糸で結んで、4つの束を作った。
それぞれを 細かくみつあみにし 先をもう一度糸で縛った。
「何をするつもりだ?」
三蔵は そんな髪形を見たことがなかったため 不思議に思い尋ねた。
「お守りを作ろうかと思いまして・・・・・。
そんなモノ 三蔵たちにはいらないことは充分承知していますが、
私の気休めとおぼしめして どうぞ お持ち下さい。
私の気持ちだけでも 連れて行くと 思っていただけるとうれしいです。」
「俺が ダメだといっても あいつらは 喜んで受け取るだろうよ。」
「ではよろしいのですね?
三蔵は 受け取っては下さらないのですか?」
「いや 俺のためじゃなく のために受け取ってやる。」
「お優しいのですね。
ありがとうございます。」
いそいそと 準備するを 三蔵は止めることなく 好きにさせておいた。
---------------------------------------------
